平成21年度の研究は、合衆国の東部を中心として、アメリカ文学研究における一つの盲点となっているブラック・アイリッシュと軽蔑的に呼ばれた民族集団の実態に関し、そのカトリック教徒としての宗教的背景や、現在でも東部では隠然とした勢力を保持しているWASP(アングロ=サクソン系の白人プロテスタント)中心の社会文化の中で、差別され周縁化された歴史的経緯を、ニュー・イングランドを作品舞台とした劇作家ユージン・オニールや、中西部ミネソタ州の出身で、1920年代のニューヨークでジャズ・エイジの寵児となったF・スコット・フィッツジェラルド等のアイリッシュ系作家の伝記や作品、および、その周辺の資料の読破によって、人種と地域から見た階級表象の実相を究明した。さらに階級格差という観点から、19世紀後半のアメリカの東部社会の表情を描き出したルイーザ・メイ・オールコットやホレイショ・アルジャー等の大衆小説、あるいは、19世紀末のヨーロッパからの移民の流入に敏感に反応したスティーヴン・クレイン等の自然主義作家の作品や関係資料も適宜参照した。 これらの研究の方向性や見込まれる成果の妥当性を確認するために、夏休暇を利用して9月に1週間、カリフォルニア大学アーヴァイン校のリチャード・ゴドゥン教授と、同大学リヴァーサイド校のスティーヴン・アレックスロッド教授を訪問し、意見交換と情報収集を行った。また両大学のロサンゼルス校の図書館を利用し、文献の収集を精力的に行った。さらに、東北大学や東京大学の図書館で、研究課題に関連する資料を博捜し、収集に努め、東京大学に所属する平石貴樹教授等の研究仲間と意見交換した。
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