平成22年度の研究は、前年度の東部に引き続き、西部を中心として、従来のアメリカ文学研究では十分光を当てられなかったが、近年の多様な批評の隆盛によって研究の促進が要請される領域に焦点を合わせた。まず、今日アメリカ社会の民族構成の構図を変えつつあるヒスパニック系アメリカ人が、これまでWASP(アングロ=サクソン系白人プロテスタント)中心の社会文化の中で、「ブラウン」で「カトリック教徒」として人種的、階級的に周縁化されてきた様相を歴史的に跡付け、彼らがアメリカ文学の中でどのように表象されてきたのかを考究した。具体的には、メキシコに隣接したカリフォルニアを舞台に活躍したジョン・スタインベックの、これまで軽視されてきた『気まぐれバス』や『楽しい木曜日』等に登場するヒスパニック系アメリカ人の描かれ方に注目し、次に、ニュー・メキシコ州を舞台にしたレスリー・マーモン・シルコーの『儀式』等を対象として、ネイティヴ・アメリカンがアメリカ社会で抑圧されてきた歴史的様相を考察した。彼らと同じようにマイノリティとして抑圧されてきた民族集団の典型である中国系アメリカ人の代表作家マキシーン・ホン・キングストンの『チャイナタウンの女武者』や『チャイナ・メン』等に、アメリカ社会で人種的、階層的に抑圧されているアジア系アメリカ人たちの文学的表象を分析した。 これらの研究の方向性や見込まれる成果の妥当性を確認するために、期末試験期間を利用して2月に1週間、南部文学や西部文学に関する文献を豊富に所蔵し、その面での著名な学者がいるサウスイースト・ミズーリ州立大学を訪問し、彼らと会って意見交換と情報収集を行った。また同大学付属ケント図書館を利用し、研究成果の補強と今後の研究推進のための文献収集を精力的に行った。さらに、11月下旬に東京大学本郷キャンパスの図書館を訪問し、研究課題に関連する資料を博捜して収集に努め、東京都内在住の数名の研究仲間と、活発で有意義な意見交換会を持った。
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