研究課題/領域番号 |
21520256
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
田中 久男 福山大学, 人間文化学部, 教授 (30039135)
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キーワード | 人種 / 地域 / 階級 / アメリカ南部 / アメリカ東部 / アメリカ西部 / モリ / ノリス |
研究概要 |
平成23年度の研究は、実施計画通り、かつてC.ヒュー・ホールマンが南部文学の地政学的区分として提唱した、エレン・グラスゴーが出自のタイドウォーター、ウィリアム・フォークナーが代表する深南部、そしてトマス・ウルフが生まれ育ったピードモントという三地域観を基盤として遂行した。すなわち、グラスゴーの『不毛な大地』のヴァージニアの上流社会、深南部プランテーション社会の階級差が典型的に見られるフォークナーの『アブサロム、アブサロム!』、ウルフの中産階級的意識が顕著に感じられる『天使よ、故郷を見よ』等の代表作を中心に、南部の地域差に人種やジェンダー、さらに宗教格差の視点を交えて、階級表象の特徴を究明した。この基本作業に加えて、19世紀末の来日前にニューオーリンズで活躍し、人種や階級の意識においても、アメリカ社会においては攪乱的な存在であったラフカディオ・ハーンの『ユーマ』、クレオール文化を背景としたケイト・ショパンの『目覚め』、および、フロリダの黒人社会を描出したゾラ・ニール・ハーストンの『かれらの目は神を見ていた』等、ワスプ(WASP)とは違う異質な目で南部を観察している作品を考察した。これらの研究の方向性や見込まれる成果の妥当性を確認するために、そしてそれらを東部ニューイングランド的な感覚から見直すために、1週間の休暇期間を使って、メイン州のボウドゥン大学のウィリアム・ワタソン教授(ナサニエル・ホーソーン学者)を訪問し、意見交換と情報収集を行った。その旅行中、魔女裁判資料館やアローヘッド・メルヴィル資料館等を訪れ、東部文学に関する資料の拡充を行った。その上、昨年度の研究対象であった西部文学の中に、フランク・ノリスとトシオ・モリを追加する必要性を痛感し、カリフォルニア大学バークレー校のバンクロフト図書館、および、ロサンゼルス校のヤング・リサーチ図書館を訪問し、必要資料と情報収集に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成21年度の東部と、平成23年度の南部の研究については、おおむね順調に進展しているが、平成22年度の西部研究において、カリフォルニアを中心に起こった黄禍論(イエロー・ペリル)を考察するうちに、日系アメリカ作家の源流的存在のトシオ・モリを調べる必要性を痛感し、昨年度、その資料や情報の収集にカリフォルニア大学バークレー校とロサンゼルス校の図書館を訪問した。今後、さらにこの黄禍論と、西部を活躍舞台としたジャック・ロンドン等の作家たちとの関係の究明も視野に入れなくてはならないと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、4年間にわたる科学研究費補助金の受託期間の最終年度に当たるので、当初の目標であった中西部のシンクレア・ルイスやハムリン・ガーランド等の作家を中心に研究を推進するが、そのための資料収集と情報交換のために、ミネソタ州やウィスコンシン州を含めた中西部の諸大学図書館を訪問し、複数の研究者とも意見交換を行う予定である。これと同時に、上述の西海岸地域に関連したロンドンやモリについても、研究成果の妥当性を検証するために、再度カリフォルニア大学を訪れることも計画に入れている。これらの作業が順調に推進できれば、ほぼ予定通りの研究成果は期待できると思っている。
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