本研究は、いわゆる「南部文芸復興期」の、アメリカ南部の歴史を中心テーマに据えた文学作品などを取りあげ、当時の作家たちがとのような歴史認識をもち、またそこにどのような文化的神話やイデオロギーが作用しているかを、ひろく文化史や思想史の文脈のなかで考察しようとするものである。今年度の研究実施計画は、先行研究の論点を整理することであり、その計画に沿って概ね以下のような作業を行なった。 1. EscottやEaglesの著作に収録された文献を手がかりに、ウィルバー・J・キャッシュのThe Mind of the Southの主要な論点、すなわち、旧南部と南北戦争以後の南部がその精神において持続しているという持続史観、白人内部の階級的軋轢が人種問題の浮上により解消し、結果として白人内部の団結が生じるという"the proto-Dorian convention"、南部貴婦人の神話の背後に、黒人男性に対する白人男性の性的幻想、恐怖感が潜んでいるというレイプ・コンプレックス、などの論点の整理・確認を行なった。これは、今後の分析の準拠枠を確定しておくという点で必要な作業である。 2. 南部文学、南部文化史に関する最新の研究のひとつであるDouglas L. MitchellのA Disturbing and Alien Memoryのテイト論の論点の整理を行なった。Mitchellのテイト論は、モダニズム志向と旧南部の秩序との亀裂の意識という観点からテイトのストーンウォール・ジャクソン伝やジェファーソン・デイヴィス伝を考察しており、筆者が現在執筆中の「テイトの伝記作品と南部の文化的自画像」(仮題)という論考に重要な示唆を与えてくれるもめであった。 3. 本研究に密接に関連するものとして、諏訪部浩一氏の『ウィリアム・フォークナーの詩学』の書評を『英文学研究』(日本英文学会、第86巻114-119頁、平成21年11月)に発表した。
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