研究概要 |
本研究は、いわゆる「南部文芸復興期」の、アメリカ南部の歴史を中心テーマに据えた文学作品などを取りあげ、当時の作家たちがどのような歴史認識をもち、またそこにどのような文化的神話やイデオロギーが作用しているかを、ひろく文化史や思想史の文脈のなかで考察しようとするものである。平成22年度の実施計画は、先行研究の論点を整理、吟味することであり、その計画に即して概ね以下のような作業をおこなった。 1.アレン・テイトに関する2冊の評伝、Radcliffe Squires, Allen Tate : A Literary BiographyとThomas A.Underwood, Allen Tate : Orphan of the Southを、詩誌The Fugitiveへの参加から、ストーンウォール・ジャクソン伝とデイヴィス伝の執筆、I'll Take My Standへの寄稿を経て、The Fathers執筆に至るまでの経緯に関して比較検討した。両評伝は、前者がテイトの旧南部への保守反動的加担と思われがちな姿勢の奥にモダニズムへの傾倒が底流していると見るのに対し、後者はテイトの幼少年時代の「精神的孤児性」を見ている点で対照的であり、筆者自身の見解を構築していくうえできわめて有益であった。 2.上記の2冊の評伝に加え、Paul K.Conkin, Michael O'Brien, Daniel Singal, Louis D.Rubinらの南部アグレーリアン論を再読し、テイトの2冊の伝記作品に関する論考「アレン・テイトの伝記作品と南部の文化的自画像」の草稿を執筆した。(これは今年度学内の紀要に発表する予定である。 3.テイトの小説The Fathersに関して、上記先行研究の論点の整理と吟味をおこなった。 4.本研究に関連して、日本英文学会九州支部大会シンポジウムにおいて、「ラルフ・エリスン『見えない人間』再考」という研究発表をおこなった。これはエリスンのアメリカン・アイデンティティの問題を扱ったものであるが、そこに南部のアイデンティティの問題も絡んでおり、本研究に側面から光を投げかけるものであった。
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