本研究は、いわゆる「南部文芸復興期」の、アメリカ南部の歴史を中心テーマに据えた文学作品などを取りあげ、そこに南部の文化的自画像がどのように持続し、また変容しているかを、ひろく文化史や思想史の文脈のなかで考察しようとするものである。平成23年度の研究計画は、先行研究の吟味を踏まえたうえで研究成果をまとめることであり、それに即して概ね以下のような作業を行った。 1.前年度に執筆していた草稿を推敲のうえ「アレン・テイトの伝記作品と南部の文化的自画像-『ストーンウォール・ジャクソン伝』を読む」を学内紀要に発表した。この論文は、反動的な南部擁護論の奥にモダニズム的人間としてのテイトの不安と夢が貼りついており、またテイトが南部の伝統的価値観への批判のまなざしを内在させていたことを、この伝記に読みとったものである。細かなテクスト分析にもとづき、フラットキャラクター的なジャクソン像の造型にテイトのモダニズム的不安からの脱却の夢が投影されていることを指摘した点は、管見の範囲では独自の見解ではないかと思われる。 2.上記の内容を九英会(九州大学英文科の同窓会組織)の年次会合で、招待講演として発表した。 3.ウィリアム・フォークナーの『行け、モーセ』を研究計画に掲げた視点から再読し、「フォークナー『行け、モーセ』と南部の文化的自画像」と題する論考をまとめた。これは昨今の『行け、モーセ』研究の動向を反映して、最終章のモリー・ビーチャムに焦点をあてて論じたもので、自分じしん実生活においては南部白人リベラルであったフォークナーがみずからのパターナリズムの枠を知らず知らず食い破り、モリーという黒人女性像に南部の伝統的な自画像を書き換える力を付与してしまったのではないかと指摘した。 4.上記2本の論文に南部史における南部の文化的自画像の変遷を概観する文章を加えて、冊子体の研究成果報告書をまとめた。
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