本年の研究では、ユダヤ人及びその文化とイスラム教及びその文化の描写を比較し、その意義を検討した。「ジェイムズ・ジョイスと東洋文化の系譜学」というテーマのもとに、スコットランドのグラスゴー大学で開催された国際アイルランド文学学会IASIL(International Association for the Study of Irish Literatures)で、"Depicting Dublin with Israelite and Islamic Elements : James Joyce's Transnational Modernity"という研究発表を行った。第一義的意味で中東地域こそがオリエントである。特に預言者ムハンマドへの言及と「コーラン」、そして「千夜一夜物語」への隠喩に絞ってジョイス作品を再読した。発表時には制限時間を超えて多くの質問をいただいた。学会終了後には、ジョイスが英国滞在中に創作活動をしていたロンドン、ボグナー・レジス(Bognor Regis)などを巡り、大英図書館ではジョイス関係マニュスクリプトなどを閲覧し、創作課程に関する研究を続けた。アイルランド・ユダヤ博物館では、多くのユダヤ人研究者にお会いし、拙論2編を陳列して頂いていることに感謝し、ダブリン在住のユダヤ人とイスラム教徒の関係などについて質問した。現在、研究、調査成果を整理して、ジョイス作品のイスラム教、ユダヤ教の要素を比較考察した論文を準備している。 また、早稲田大学の清水重夫教授(日本ジェイムズ・ジョイス協会会長)主宰の『フィネガンズ・ウェイク』精読の会や京都ノートルダム女子大学の須川いずみ教授主宰の『ユリシーズ』読書会にも積極的に出席し、東京、関西方面の研究者たちと意見を交わした。4月はじめにジョイスとジャポニスムの論文をIASIL学会誌に投稿し、6月以降に出るという査読結果を待っているところである。
|