研究課題/領域番号 |
21520266
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
伊東 栄志郎 岩手県立大学, 共通教育センター, 准教授 (70249241)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 英米文学 / ジェイムズ・ジョイス / 東洋文化 / オリエンタリズム / ジャポニスム / イスラム / (反)ユダヤ主義 |
研究概要 |
論稿「ジョイスとイエィツ作品における能と禅:東アジアにおける日本文化の収斂」では、ジョイスとイエィツ作品における能や禅の言及について考察した。中国大陸、朝鮮半島の影響下で発展してきた日本文化は能や禅文化で独自性を示し始めた。イェイツの能や禅など日本文化への傾倒は有名だが、彼やパウンドと親交のあったジョイスもオルコットの『仏教問答集』やフェノロッサ、パウンド共著『能 日本の古典舞台の研究』を所有していた。能という言葉も、『フィネガンズ・ウェイク』で数回登場する。イエイツは能を文学者野口米次郎と舞踏家伊藤道郎から学んだ。能の修練をしたことがなかった伊藤だが、依頼を受けて「能舞の如き踊り」をイエイツの劇『鷹の井戸』初演で披露した。『フィネガンズ・ウェイク』の最終章では、日本僧に扮した聖パトリックが中国仙人に扮したドルイド僧バークリーと対話する。執筆された1938年にはすでに日中戦争が始まっており、当時の世相を反映した「能舞台の狂言」のような様相を呈していることを研究した。 論稿「三人の日本人ジョイシアン:芥川龍之介、伊藤整、村上春樹」では、日本を代表する3人の作家を中心にジョイスが日本文学に与えた影響が大きいことを論じた。韓国初のモダニスト作家パク・テーオンを含む多くの野心ある作家たちがジョイスの革新的な語りのテクニックやモダニズムの手法を吸収する一方で、作者の自伝的要素をどのように創作に用いるかを学んだ。芥川龍之介は、ジョイスの『若い詩人の肖像』第1章の語りの手法にどれほど衝撃を受けたかを記したメモを残した。伊藤整は、初めて『ユリシーズ』を邦訳し、後に『若い詩人の肖像』というジョイスを強く意識した自伝的小説を描いた。現在も意欲的な創作活動を展開している村上春樹は、プルーストを意識しながら、ジョイス作品を含む邦訳された外国文学を読んで、自分の文体を築いてきたことを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジェイムズ・ジョイス作品について、今まであまり研究されてこなかった東洋文化との関わりについて、ユダヤ、イスラム、インド、中国、そして日本の要素を考察出来た。国際学会で発表し、その成果を論文に着実にまとめつつある。本研究は、中国、台湾、韓国でも話題になっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究「ジェイムズ・ジョイスと東洋文化の系譜学」は、これまでのところ、ほぼ当初の計画通り進んでいる。東京海洋大学と早稲田大学で開催される関東ジョイス研究会や京都ノートルダム女子大学で開催される関西ジョイス読書会などで研修しつつ、今後も引き続き、年1度以上を目標に国際学会での口頭発表を研究の区切りとして成果を発表し、東洋文化の国際的視点から本研究を着実にこなし、発表原稿を加筆修正する形で、論文にまとめていきたい。
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