本年度の研究は、(1)前年度までに立証してきた環大西洋圏文化における「形体性the figural」という側面を現代大衆文化のなかに見いだし、北アメリカとカリブ海におけるそれらの差異と同一性を検証し、(2)次の段階として、環大西洋文化における技術論・情報論的側面からの考察を加えるための基礎を確立してゆくことを目的としていた。研究実施計画では、3月に移民文化関連資料収集のためにニュー・オリンズで研究調査をおこなう予定で、そこを基準に、年間および次年度にも渡る研究実施計画を立てていたのだが、A型インフルエンザの流行にともない、3月の入学試験追試実施を含む予定外の業務が生じ3月の研究調査を短期間に場所も変更しておこなうことになった。研究調査をコロンビア大学および同大学の所在地ニューヨークに変更した結果、本年度の資料収集は、自ずと移民文化によりも北アメリカのアフリカ系アメリカ人の文化に即したものに比重が傾くこととなった。しかし、研究協力者のジョン・ヤシン教授の助力もあり資料収集が可能になったニューヨーク市立大学および、ニューヨーク公共図書館の黒人文化研究センター(Schomburg Center for Research in Black Culture)には、ジャーナル等の文献書類のみならず数多くの視覚・聴覚資料があったために、とりわけ身体と技術の境界という本研究課題には欠かすことのできない側面という点で、今後の研究に大いに役立てる収集成果を得ることができた。それにより、文字文化における「形体」の問題を、身体と技術における「構造」と「ずれ」の観点から再考察することが可能になったという点で、重要な成果を得たといえる。
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