本年度の研究は、まず(1)環大西洋圏に共通して展開される現代大衆文化における身体性・擬態性の特性とサンプリングやCDJやVJの利用といったテクノロジーの活用について、意味表象との関係性の側面から、とりわけサンプラーに関して究明することを目的とし、次に(2)国際学会に参加し発表することで、原稿の研究趨勢に関する情報を入手し、今後の研究の微修正に役立てることを目的としていた。 (1)については、まずサンプリング規則的なビートやフレーズの機械的な反復であることは従来の研究でも指摘されてきたことだが、昨年入手したサンプラーの実際の使用に加え、アーティストたちの証言から、単に機械的な反復ではないことが判明してきた。つまり、サンプルしたものを単位反復するのではなく、サンプラーのパッドをたたく際に意図的に音をクォンタイズ(quantize=機械による音のレギュレーション)をしないことで、生じる「ずれ」や「ゆらぎ」を残すということである。加えて、このテクノロジーを介した「ずれ」と「ゆらぎ」は、当研究課題で昨年度までに究明してきた擬態と反復による「ずれ」と類似することが明らかになった。 (2)については別紙のとおり、トリニダードの西インド大学で開催された国際学会で発表をおこなったが、その発表は(1)の問題よりむしろまだ進行が遅れている同時進行中の移民と文化混淆の問題に関するものであるだけに、いくつかの問題点が指摘されたが、それを修正したものを別紙の通り論文としてまとめて発表した。 さらに、(2)の目的については外部資金の導入により達成できたため、昨年度やり残した部分のあった資料の収集をニューヨーク公共図書館の黒人文化研究センター(Schomburg Center for Research in Black Culture)にておこなうことができた。こちらは音響・映像資料が多いため、これから分析方法も含めて、抜本的な研究方法の再検討が必要となる。
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