平成22年度は、主に次の2点を中心に研究および調査を行った。1)19世紀前半の科学研究や科学的著作における神学的価値観、および文学や文芸との関わりについて検討した。化学など実験を伴う研究では、科学研究の自立性が強く意識されているが、Bridgewater Treatisesなどの事例からは、神の被造物としての自然を探究するというペイリーの著作にも見られる思想的枠組みが、キリスト教信仰と科学研究とを齟齬なく結びつける意匠として機能していることが分かった。これらの点をふまえて、王立協会、英国学術振興協会のメンバーの科学的著作について次年度も続けて検討を行う。また今年度は特に、王立協会と密接につながった形で1804年に設立されたロンドン園芸協会(The Horticultural Society of London)の活動について大英図書館で文献調査した。当時植物や園芸をテーマに取り入れた文学的著述は多く出版されたが、同時にロンドン園芸協会の機関誌やその他の一般園芸雑誌の発行が始まっていた。園芸学や植物学が、独立した科学的学問領域として発展するのはヴィクトリア期を待たねばならないが、学問的成熟の遅行性が文学との親和性を保持する要件の一つと考えられ、この問題については次年度もさらに考察を行う。2)ロマン主義の時代における文学と科学を同じ精神の相の下に見る姿勢が、科学研究の制度化によって後退した点について、国際学会、International Colloquium 2010 : the Glory and Fall of Scientific Poetryで発表した。この発表内容については、しかるべき学会誌に発表する予定である。また上記に加えて、当時の医学界に起こったハンター論争の際に書かれた医師アバネシーの論文に登場する、'Surinam Toad'が、S. T.コールリッジが好んだメタファーであることを広く考察し、イギリスロマン派学会で口頭発表すると同時に論文として発表した。
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