本研究は、イギリス19世紀に推進された科学研究や科学教育の制度化が、文芸作品やその価値判断にどのような影響を与えたかを考察したものである。19世紀初頭のロマン主義期には、科学研究に見られる知的探求の力を、社会を変革する力として肯定的にとらえ、詩と科学の融合を詩的ヴィジョンとして追及することが様々になされた。本研究ではこの融合のヴィジョンが、コールリッジの批評やキーツの詩作においては屈折を余儀なくされたこと、英国学術振興協会の活動など科学研究の専門化の進行とともに、作品が生み出された時代の科学や社会の関心を文学の価値とは切り離して捉える傾向が次第に顕著になったことを明らかにした。
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