キャクストン版Chronicles of Englandで使用されたと印刷用原稿にもっとも近い写本を特定するために、Lister Mathesonの分類に基づき、英語で書かれたProse Brutの主な写本80余りをピックアップした。その中の写本18について、アメリカカリフォルニア州ハンティントン図書館、イギリスグラスゴー大学図書館、オックスフォードボドリアン図書館、ロンドン大英図書館にて調査・研究した。特にアーサー王に関する記述部分についてのスポット・チェックを行った。 平成21年度のもっとも大きな成果は、ケンブリッジ大学のダニエル・ウェイクリン博士から有益な知見を受けて、ハンティントン図書館所蔵のHM136にキャクストンが使用した印刷用原稿だと思われる印がついていることが確認できたこと、それによって同写本が印刷用原稿そのものに違いないという確信が得られたことである。(*)またこれまで写本から写本への転写と考えられていた写本も、印刷本から転写した写本だという新たな可能性が高まってきている。 今までの研究でアーサー王の記述に関する成立年代の特定までにはいたっていないが、改めて「アーサー王の死』とProse Brutの記述を比較してみると、後者の記述年代成立がばら戦争の比較的後期に当たる可能性が確認できた。キャクストン版成立までのProse Brut写本の発展過程をさらに特定するために、引き続き60近い写本の調査・研究を予定している。 (*) 平成22年5.月13日現在、ウェイクリン博士は筆者による情報提供を元にHM136がキャクストンの印刷用原稿だと主張する新しい論文を執筆中であるという情報を得ているが、発刊雑誌・発行時期は共に未定である。
|