研究者は急逝したLister Mathesonの家族から、彼が死ぬまでBL Add 10099がCaxtonの印刷用原稿として機能したという仮説を保持していた情報を得た。つまり、Wakelinが2011年夏に提出した(Caxton版の印刷用原稿である可能性を濃厚に示す)HM 136上の証拠をMathesonはついに知らず、ゆえにFriedrich Brieが一世紀も前に立てた説に立脚し続けていたと判明したのである。 こうした背景から研究者は4月に中尾祐治を訪問し、HM136上の言語的特徴について示唆を受けた。幾つかの表現において、HM136の言語の方がCaxton版よりも古いとする証拠が見られた。その上で8月にロンドンの大英図書館を訪問、綿密な語の単位でHM136のテクストをCaxton版、そして10099と比較した。その結果、、研究者が2004年に違いを明らかにしてあった10099の書き出し部分の2丁は、テクスト部分でも違いがあると判明。すなわち、書き出しの2丁が基にした原稿はCaxton版よりも前の写本で、MS Douce 323に近いテクストだが、HM136とは直接の関係はない。これは副次的に、ぶれの大きい10099のテクストにおいて、3丁以降がCaxton版に基づいているというこれまでの研究を際立たせる結果ともなった。 研究者は上記について、12月中世英語英文学会で発表を行った。HM136がCaxton版の印刷原稿で、10099がお手本とする原稿を途中で差し替えた写本という事実もさりながら、10099はCaxton以前の写本であるというBrieの定説を覆した点は重要である。権威あるEETSの一冊として百年も君臨してきたProse Brut研究におけるひとつの前提が覆ったからだ。この内容はArturianaの論文にも盛り込み、海外の研究者への結果提示も行っている。
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