本研究は、1840年代に超絶思想の広がりのもと、いわゆるアメリカ・ルネサンスと呼ばれるアメリカ文学の隆盛期がボストンを中心とするニュー・イングランドで形成される時代に、その文化の影響を受けつつそれに参入したボストンの女性たちのネットワークを辿り、その生活、文学、思想を追跡することを通じて、女性たちの超絶思想をアンテベラム期のアメリカ文化史の未開拓の一側面として解明することを目的とする。 平成24年度は、アメリカ西漸運動の帰結として起こる1846年からのメキシコ戦争が文学のなかでどのように表象されたか、奴隷制度と超絶主義との関わりを、ホーソーン作品および超絶主義運動に関わった女性たちの旅行記や日記を手がかりに考察した。エマソンやソロー、マーガレット・フラーなどボストンの超絶主義者たちは、アボリショニズムの思想から西漸運動は奴隷制度の拡大を意味するとして、領土の拡大に反対した。そうした超絶主義者たちとは一線を画し、西漸運動を牽引する立場のジョン・L・オサリヴァンの『デモクラティック・レビュー』に多くの短編を寄稿したホーソーンの小説にも、メキシコ戦争により南西部の広大なテキサスの地がアメリカ領土となることの不安がうかがえる。メキシコ戦争前夜にアメリカ国内に流布した不安の言説、フランシス・バルカの『メキシコの生活』と後に妻となるソファイア・ピーボディの『キューバ・ジャーナル』との関係からホーソーン作品を論じた。 またマーガレット・フラーの友人や教え子などからなるボストンの超絶主義の思想に共鳴した女性たちのグループはメスメリズムに傾倒し、しばしばセッションを持った。女性たちがメスメリズムの実践のなかに見いだしたフェミニズム思想を、この時代のアメリカ・ルネサンスのもう一つの重要な側面として考察した。 この研究成果を論文1本、共著本2冊(うち1冊は2013年6月に刊行予定)に収めた。
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