<環境正義>は、自然の生態系を守ることと社会的正義の同時追及の必要性を示す概念として今日注目されている。この環境正義の概念を先住民の文化・文学に検証し、グローバリゼーションの進展と共に、地球環境への脅威が増す今日において、一見荒唐無稽に思える先住民の<知恵>がいかに社会学的、科学的整合性を理解した「先を見越した」ものであったかを考察し、さらに、彼らが培ってきた環境正義の概念がどのように現代の先住民、先住民作家に継承されているかを考察するのが本プロジェクトの目的である。 カナダ北西沿岸に生活するカナダ先住民は古代より、サケ漁を生活の糧として生活してきた。それゆえ、サケにまつわる民話、工芸が多く、風土的に同じような環境で生活するアイヌ民族と共通点が多い。そこで、9月に道東を訪れ資料収集をはかった。今回の調査・資料収集はカナダ先住民のサケ文化とアイヌのサケ文化の比較のためであった。まず、北海道教育大学釧路校、阿寒のアイヌ生活記念館を訪問し、情報収集を図った。また、サケの仲間といわれる幻の魚イトウの生息状況を塘路湖に探った。この状況はカナダ北西沿岸の湖に隔離されたカナダマスと似ている変化をとげている。また、今回の調査・資料収集は、カナダのフレーザー川に遡上するサケにまつわる民話との比較が目的であった。 2月にオーストラリアを訪れ、資料収集を行った。一つは、ダーウィン在住のアボリジニー作家でシンガー・ソングライターのShellie Morrisとの意見交換である。また、カナダ先住民、オーストリア先住民文学の専門家であるクイーンズランド大学のJoanne Tompkins教授を訪れた。両氏との意見交換は、先住民文学にみる環境正義の現代的意義を考察する上で大変参考になった。クイーンズランド大学では、多くの資料収集ができた。また、2010年4月には、カナダを訪れ、S.Grace教授をはじめ、ハイダ族の作家であるMichael N.Yahgulanaas氏と意見交換をし、今後の研究に有意義な情報を得た。
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