<環境正義>の概念は、自然の生態系を守ることと社会的正義の同時追及の必要性を示す概念として昨今注目されている。この概念の背景には、1980年代にアメリカで問題となった環境人種差別への批判として起こった環境正義運動がある。この運動は、アフリカ系黒人が多い地域に有害廃棄物処理施設が集中していたという貧困層に劣悪な環境が与えられ続けていたことに対する抗議であった。経済成長に伴う公害問題から環境正義の考えがグローバルな形で理解されるようになり、その後1991年「第一回全米有色人種の環境リーダーシップサミット」が開催され、環境正義に関する原則が決まった。その第1原則が、「環境正義は、母なる大地は神聖不可侵であること、生態系の和合、全ての種の相互依存、そして生態系の破壊から自由である権利を表明する」とある。この環境正義の概念をカナダ先住民の口承文学に検証し、グローバル化の進展と共に、地球環境への脅威が増す今日において、一見荒唐無稽に思える先住民の口承民話がいかに社会学的、科学的整合性を理解した"proactive"な、すなわち先を見越したものであったかを論考し、現代のカナダ人作家たちにどのような影響を与えているかも併せて考察することが本研究の目的である。今年度は、研究期間最終年度にあたることから、研究総括として以下の成果を達成した。 *2011年11月12日の「第29回日本カナダ文学会年次研究大会」において、アベナキ族の口承民話を例にあげて「カナダ先住民の口承文学にみる環境正義の現代的意義」を発表した。本発表は、明治学院大学国際平和研究所発行の「PRIME」(2013年3月発行)に論文として掲載される。 *ブッカー賞受賞作家であり、環境運動家としても環境問題について政治的提言、講演を積極的に行っているマーガレット・アトウッド著『負債と報い-豊かさの影』(2012年3月岩波書店刊)の翻訳を出版。多くの新聞の書評欄で紹介された。
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