本年度は「回帰線」アメリカ文学の理論構築をするための文献調査から着手し、文献の収集と分析を行った。回帰線という思考はアメリカ帝国主義のもとで行われた領土拡張に伴う植民地主義から発したものであり、枠組みとして帝国主義、植民地主義、ポストコロニアリズムなどに関する文献も対象とした。それに基づき、初年度はキューバ系アメリカ文学に集中することとして、文献を収集すると同時にキューバに赴きキューバ系アメリカ作家が拘る祖国を実地調査した。フィリピンとキューバの旧市街は共通した建築様式や街路などが数多くあることを検証、両国がポストコロニアルという共通項を多く持ちそれが回帰線の枠組みを成すことを実地に確認した。その後キューバ系アメリカ作家の故国表象を中心に作品分析に取り組み、それをフィリピン系アメリカ作家と比較検討した。3月には渡米してUCLAを中心に研究者にインタヴューを行い、回帰線アメリカ文学の基盤となるアメリカ帝国主義の研究がアジア系アメリカ文学に従来欠落しており、この研究は今後盛んになるとの指摘を得た。今後他の回帰線諸国に枠を広げより大きな枠組みでの文学分析に取り組むのは重要かつ意義あることになると認識した。
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