本研究の目的は、南北の回帰線に囲まれた区域に点在するスペインとアメリカの植民体験を持つ国々から米国に移民した人の文学を「回帰線」アメリカ文学と名付け、その文学領域における故国表象をポストコロニアル視点より分析することである。そのために以下の3点の調査および研究を行った。 1.キューバ、プエルトリコ、グアムなど回帰線諸国を歴訪し、文学背景を実地検証した。さらに米国ニューヨーク市およびロサンゼルス市における回帰線諸国からの移民が形成するエスニックタウンを訪れ、文学的および文化的検証を行った。当概地域では多くの大学で教員や大学院生との討議やインタビューを行い、情報交換および資料収集ができた。 2.平成21年度よりAALA Journalや著書にキューバ系、プエルトリコ系、グアム系、フィリピン系に関する論文を発表すると同時に学会では回帰線文学概念の周知を目指した包括的な発表を行った。ことに太平洋の島々からの移民文学研究に関しては日本ではほとんど行われておらず、チャモロ文学分析などは先端的な研究であると自負できる。 3.文献の発掘は困難を伴い、スペイン語の文学作品は翻訳で読むという制限はあったものの、現地探訪において数多くの未発掘作品を手に入れた。この成果は今後も取り組む課題である。 ポストコロニアル観点から回帰線文学を概観したときに、アメリカ帝国主義を背景としたアメリカ植民が強大な影響を今日なお及ぼしているのはいうまでもないが、それに呼応する力として日本植民が浮上する。グアム系研究はこの視点の欠如と必要性を喚起し、今後の研究課題として浮上した。回帰線文学概念は今後も研究の分析視点として重要な示唆を与え続けると考える。
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