ヘンリー・フィールディングの創刊、編集した4つの新聞に関して、記事内容、政治的イデオロギー、レトリックを分析し、彼の政治観の変化を明らかにすること、さらに、同時代の他紙と比較することにより、18世紀英国における政治文化の形成過程の一端を明らかにすることが、本研究の目的である。平成22年度は、『真の愛国者』『ジャコバイト・ジャーナル』紙、および同時代にフィールディングが出版したパンフレット類の、歴史的コンテクストを明らかにすることを主目的にして研究を行った。このため、ジャコバイトの乱の舞台となったスコットランド、ハイランド地方に出張して文献収集を行い、また、ジャコバイト軍進行行路を実際に辿り、地勢の特徴をつかんだ。これらを通じて、ハノーヴァー王朝側のプロパガンダに対峙したジャコバイト側の論説研究が軽視されてきたことを痛感した。この言説比較研究は、本年度に論文にする予定である。また、ジャコバイトの乱を、単にスコットランドの問題、あるいはスチュアート王朝の問題として限定的にとらえるのではなく、この蜂起が、当時のイギリスの対ヨーロッパ外交とくにフランスとの関係を背景にしていたことを強調するイギリス史の先行研究を、これまで私の研究で考慮してこなかったこともわかった。こうした新たな研究視点を得て、ジャコバイトの乱がロンドンでは当時どのように理解されていたのかを明らかにした上で、フィールディングのハノーヴァー王朝支持の論説を読み直しているところである。これによって、ハノーヴァー王朝支持論の形成過程を詳述することができるのではないかと考えている。
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