研究概要 |
2011年度は3カ年の研究計画の最終年度にあたる関係で、前年度までの文献調査と現地調査の結果を総括し、インド現代社会の諸問題と映画製作の関係を中心にこれまでの研究を纏め、理論化していく作業を中心に行った。最重点課題はカースト制度からの脱却を目指す社会層の動きの文化論的な分析と考察であった。イギリスからの独立後、インドは冷戦構造の枠組みの中で社会主義的政策を実行し、また同時に民主的な政治制度を導入することによって、近代的な統治システムを確立した。しかしながら、ガンジーを建国の父とする国民会議派が中心になって生み出した国民意識はヒンズー教徒を中心にしたものであったために、他の宗派やヒンズーのヒエラルキーの最下層に位置するものたちは、精神的かつ社会的に大きな負い目を背負わされることになった。 冷戦構造が終焉し、1991年の国家の基本方針の大転回により、市場経済の導入、社会基盤と情報技術の発展によって、ガンジーたちによって作り出された国民意識,換言するならヒンズー的秩序は瞬く間に崩壊する。貧困の問題、家族の変質、改宗などが例えば大衆映画作品ではどのように反映さているかを詳細に分析することによってインドにおける国民意識、宗教意識の変化を考察した。この研究成果は研究代表者の田口による4^<th> SSEASR Conference, Thimphu, Kingdom of Bhutan June30-July3,2011での発表と分担研究者クロスの論文に結実した。また、2010年に文化情報学部の文献室に収められたマサオ・ミヨシ文庫のポスト・コロニアリズムに関連する資料を用いて本研究の理論的枠組みを構築したが、その成果は田口によってMasao Miyoshi Tribute at USCD 2011で公表された。この招待講演の模様はユーチューブでも見ることができる。 最後に、本研究から生まれた我々の文化理論をさらに普遍化し、国民意識の変化とメディア、とりわけ大衆娯楽メディアとの相互依存性に関する一般理論を田口は日本英文学会関西支部第6回大会(2011年12月18日、於関西大学)のシンポジウムで提案した。
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