14世紀中ごろから15世紀後半にかけて全ヨーロッパで流行した、キリストの生涯について「黙想」するという信仰方法が成熟した結果、一般信徒の信仰形態は個人充足的傾向を強めていった。それは信仰の自立を促す一方、教会と王権間の実権交代という社会の権力構造の変化も伴った。この信仰形態の圧倒的な伝播力と影響力は、キリスト・マリアに対する共感と崇敬を鼓舞することを重要な手法とする「黙想」という信仰の形が、生物学的に心身の相関関係を活性化させる構造を持っていたことにも起因していると言える。末期中世の情緒的信仰主義(affective devotionalism)においてしばしば報告される神秘体験も、一部この脳活動として説明しできるであろう。キリスト・マリア崇敬は、写本文化の終焉を華やかに飾ったという点でも重要である。
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