研究概要 |
昨年度からの継続課題として、ハーマン・メルヴィルの第一作Typeeをめぐり、メルヴィルおよび19世紀アメリカの折衷的な風景美学と南太平洋の関連を検討することで、メルヴィルの原風景を確認する作業を行い、それを一般向けの共著書のかたちで発表した(「追憶のなかの南海-『タイピー』と永遠の風景-」、『異相の時空間-アメリカ文学とユートピア』所収)。また、同じくメルヴィルの代表作Moby-Dickをめぐり、エイハブとイシュメールの孤児意識と母との関係を論じたものを、北海道アメリカ文学会にて報告をした後、アメリカ学会機関誌『アメリカ研究』に掲載した(「『白鯨』の海、棄子の夢」)。さらにメルヴィル中期の短篇作品"The Encantadas"をめぐり、神に見棄てられしものの祈りの在りようについて、日本ソロー学会全国大会シンポジウムで報告した。 間接的に関わる作業としては、20世紀アメリカの代表的詩人Robert Frostの思想、とりわけダーウィニズムに関わる理解をふかめるために、Peter J. Stanlis,Robert Frost:The Post as Philosopher(Isi Books,2007)の日本語訳を、共訳書のかたちで出版した(『ロバート・フロスト-哲学者詩人-』)。主としてダーウィニズムと神学の関係をめぐるフロストの立場を詳述した章を翻訳することで(序文、第2章、第3章)、19~20世紀における英米の地質学言説を確認し、ダーウィン進化論における、チャールズ・ライエルの影響関係についても理解を深めることができたが、この点は、上記「追憶のなかの南海」における19世紀の風景美学をめぐる課題に関連している。
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