イギリス、特にロンドンのウエストエンドにおける両大戦間期は、ミュージカルに先行する様々な音楽劇(オペレッタやミュージカル・コメディ、レヴューなど)が共存する時代であったが、本研究は、この中でも特に、歌、踊り、寸劇からなるレヴューという表現形式をとりあげ、そのレヴューのイギリス独自の発展過程を、当時の階級意識や劇場制度、異文化接触といった文化的社会的背景を視野に入れながら、明らかにしようとするものである。年目である今年度は、両大戦間期にレヴューがミュージックホールのような大衆演芸との差別化を経てウエストエンドの中産階級的な(ミドルブラウな)エンターテインメントへと変質する、その過程を研究の主な対象とした。具体的には、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館分館、およびニュースペーパー・ライブラリーにおいて調査を行い、この時期に上演された代表的なレヴュー作品に関する新聞記事や広告、劇評など、初演当時の様子を伝える様々な資料を収集することにより実施した。その結果、1910年代後半においてはレヴューがヴァラエティのような大衆演芸とほとんど区別なく上演されていたのが、1920年代前半になると大衆演芸と明確に区別されるものとしてレヴューを語る例が散見するようになったこと等を確認した。この調査の具体的成果は、勤務先の紀要に「アンドレ・シャルロの『こちらロンドン!』-イギリス1920年代のレヴューに関する覚え書き」と題して掲載した。また、日本演劇学会の分科会である近現代演劇研究会10月例会では、本研究課題にも関連のあるウエストエンド劇場街の高級化という問題を一部とりあげて発表した。
|