本研究は、ルネサンス期のイギリスを中心として、宴会という料理形式を通じて多様に交差する社会的文化的実践空間の編成に注目して研究を遂行することを目的としている。そして、この時代の宴会、つまり、"feast"と"banquet"の多様な関係性を明らかにするために、これらの日常的実践が、当時の人々にどのような空間的文化生産の場を提供したかを解明する。本研究では、ルネサンス期の英国社会の様々な社会階層で実践されていた宴会という料理の諸形態がどのような特徴をもっていたかを分析し、その上で当時の文学や演劇といった文化生産にいかなる影響をもたらしたかを検証しようとする。 研究体制としては、主勤務地である天理大学の図書館、関西の国公私立大学の図書館、国立国会図書館関西館などを中心として資料の整理、最新批評論文のチェックを行った。また、国内における食文化研究グループやエンブレム研究会などで、成果を発表した。また、来日した海外のエンブレム研究者と交流し、情報を交換した。また、海外では、主に英国における調査の対象「I.料理本や家政学書によって記された調理実践としての宴会」を中心に、ロンドン大学図書館、大英図書館、大英博物館、ロンドン大学ウォーバーグ研究所、そして、ヴィクトリア&アルバート美術館において、関連研究資料を収集した。具体的には、1600年頃に製作されたバンケット木皿に描かれた詩と絵図という視覚芸術の文化的社会的背景を調査し、エンブレムの伝統との関係について考察を進めた。 2009年度は、以上のように、バンケットの文化的背景を広く調査・分析することによって、より具体的な事例の分析に進むことができ、翌年度に国内外の学会で成果を発表し、学術機関誌への投稿を開始するために十分な準備を行った。
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