研究概要 |
本研究の主目的は、英国ヴィクトリア朝児童文学が日本の児童文学の成立と発展に与えた影響を、とりわけ女性作家たちの置かれた文学的・社会的情況に焦点を当てつつ、比較文学・文化的観点から明らかにするものである。 最終年である本年度は、情報整理を中心に進めた。まず初年度より収集した書籍や資料等の情報をもとに、英国女性児童文学作品の日本における受容史を明らかにし、英国と日本の児童文学がいかに成立し発展してきたのかを、前年度に引き続き考察した。そして、本研究を計画していた時点(2008年)出版予定で、活用を希望していた Women and Belief, 1832-1928 が2012年秋にようやく発刊されたため、以降はそれを読み解く作業に従事した。同時に、「女性児童文学と信仰」という観点から各作家の宗教的背景をまとめる作業をおこなった。加えて、散文だけではなく韻文における英国女性作家たちの作品の変遷をたどるため、19世紀韻文集シリーズの再販を入手し、女性作家による児童文学の発展へと至るまでの過程を振り返った。 このように、昨年度に引き続き、英国女性児童文学作品の日本における受容史を明らかにしながら、英国と日本の児童文学の成立と発展を軸にして、英国と日本の女性作家たちの活動を概観した。さらに、前年度までに国内外で収集してきた資料をもとに、暫定的に作成してきた年表とアンソロジーをまとめつつ、女性が作家として生きていくためのアイデンティティの確立と葛藤という問題を取り上げ、本研究の主要テーマである「児童文学の成立と発展」に引き寄せて考察した。
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