本研究では、「アメリカ格差社会とアフリカ系アメリカ人のサブカルチャー」をテーマに、アメリカにおける格差社会の問題について、社会的弱者とされるマイノリティー・グループ、ことにアフリカ系アメリカ人の視点から、彼らが発信する、権威主義に対抗するサブカルチャーとしての文化表象を検証する。 本年度はまず、1980年代の終わり頃から21世紀初頭にかけて、アフリカ系アメリカ人の文学と文化に大きな影響を与えたポスト・ソウル美学に着目した。ポスト・ソウル美学の担い手は、公民権運動の時代に成長し、人種差別撤廃後の大きな変化の時代を生きてきた人々である。この世代の作家の1人、テリー・マクミランは、文学のジャンルばかりではなく映画のジャンルにも進出して成功し、人種や階級の違いを超越して多くの人々を魅了している。ジャンル、人種、そして階級差を越えたマクミランの世界で描かれる文化表象を検証することは、公民権運動までは人種で固定化されていたアメリカの階級社会を再検討する上で非常に重要である。 さらに、アフリカン・アメリカンの作家トニ・モリスンの第五作目の小説にあたる『ビラヴィッド』が、アメリカの人気テレビ番組司会者、オプラ・ウィンフリーによって映画化され、その後、作者自身の手でオペラ化され、ビデオやDVDで広く一般に普及していることの意義を考察した。さらには、「声なき者の代弁者」としてのモリスンの思いが、活字体とは異なった電子媒体を通して伝達されることの重要性を明らかにした。
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