本研究では、「アメリカ格差社会とアフリカ系アメリカ人のサブカルチャー」をテーマに、アメリカにおける格差社会の諸問題について、社会的弱者とされるマイノリティー・グループ、ことにアフリカ系アメリカ人の視点から、彼らが発信する、権威主義に対抗するサブカルチャーとしての文化表象を検証することを研究目的としている。 本年度は昨年度に引き続き、1980年代の終わり頃から21世紀初頭にかけて、アフリカン・アメリカンの文学と文化に大きな影響を与えたポスト・ソウル美学に着目した。この世代の作家の1人、コルソン・ホワイトヘッドに注目し、彼の半自伝的小説と言われる『サグ・ハーバー』(2009)を中心に、彼のエッセイ等も参照しながら考察を行なった。人種、階級差を超える手段として映画や音楽の役割を重視する彼の姿勢は、サブカルチャーの重要性を証明していると言える。この研究成果は、2010年10月に開催されたアメリカ文学会全国大会におけるワークショップで公表した。 本年度はさらにグローバル時代における自然破壊と階級格差の問題について検討した。資本家によっていわゆる発展途上国の資源や労働力が搾取されるグローバリゼーションの時代にあって、社会で周縁化されてきたアフリカ系アメリカ人の闘いの手法が注目されている。周縁化されてきたマイノリティの人々と同様、沈黙を強いられ、搾取されてきた自然の表象について、トニ・モリスンの『マーシー』を中心に研究を行い、その成果を2010年11月にフランス・パリで開催されたトニ・モリスン学会で、"Conquest of Nature and Establishment of Racial Hierarchy in A Mercy"というタイトルで発表した。
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