研究概要 |
21年度は、当初の予定通り、グリーンの残した「投書」について分析した。まずはYours etc : Letters to the Press 1945-89, selected & introduced by Christopher Hawtree所収の179編の「投書」のうち、1930年代から1950年代のものを中心に検証し、考察を行った。また平成21年に発足した「日本グレアム・グリーン協会」の研究会などに参加し、かつて『グレアム・グリーン文学事典』を作成した時の執筆メンバー達と意見交換を行ったりして、その成果を『四国大学紀要』第32号に論文としてまとめた。まず新聞というイギリスの活字メディアを、18世紀に健筆を振るったスウィフトらのエッセイジャーナリズムからの系譜の中で概観し、若き日ジャーナリストとして執筆を開始したグリーンの記事や書評の特質を考察した。続いて「テンプル誹謗事件」やナボコフらの猥褻裁判をめぐってのグリーンの記事や、チャーリー・チャップリンの国外追放にみるアメリカの反共体制への批判の投書などを、当時の社会状況の中で再検証することによって浮かび上がってきた、グリーンの新たな側面を提示した。 さらに、21年秋には、日本キリスト教文学会の第39回全国大会(平成22年5月8~9日開催予定)において、インドシナ戦争とグリーンについて発表することが決まったため、それに備えて、1950年代前半に、グリーンがTimesやSpectatorなど英米の雑誌や新聞に寄せた記事の分析に着手した。 また四国大学の研究機関である言語文化研究所の文学部門で取り組んでいる共同研究プロジェクトの一部として書いた論文(共著)では、第1章「辺境の人・越境者、スパイ」を担当し、自分自身もスパイであり、またスパイが登場する作品を多く書いた作家としてのグリーンについて論考した。これはグリーンの「投書」や記事に直接関わるものではないが、グリーンのジャーらリストとして種々のメディア表象が、彼が行ったとされる様々なスパイ活動をカモフラージュさせるものとして機能しているという説を提出してみた。
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