研究概要 |
本年度は、執筆される予定の本の最終章を占める、いわゆる「アキレウスの盾の描写(11.18,478-613)」の問題を探求することに費やされた。ヨーロッパでは二つの大戦間にこの問題を論じた重要な仕事がいくつかなされており、これらとの格闘であった、と言ってよい。本研究の主張は、ホメロスを理解する際に、ホメロスが作品として確立して後に成立した「ヨーロッパとアジアという世界分割」を持ちこんではならない、ということであるが、その主張と、その問題に関して無自覚であったがすぐれた仕事でもあった前記の諸業績をつきあわせることが目的であった。その結果として、確かに彼らの仕事は優れた仕事ではあったが、前記の問題を解決していないが為に限界も持っていたこと、を明らかにし得た。また、もちろん、その限界をどのように克服すべきか、その道筋も示し得た。なお、この論文は、日本で唯一の文献学専門誌「フィロロギカ」第5号に向けて投稿され、採用され、5月末に公刊された。 また、西洋古典学会の欧文誌に、上記の同じ本の最初の部分に属する既に日本語で既発表の論文の英語版を応募し、採用され、平成23年4月に公刊される予定である。 また、広くは、本研究の究極の目的である、日本での文献学の基礎付けの為の、学会活動として、古典文献学研究会の編集主幹として、京都での学会の開催討論なども行った。
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