「目的」 それぞれの文化が古典というものを何らかの形で持つ。ごく普通の意味では、その文化の継承者(たとえば日本の古典であるならば日本の文化的文脈で育った、あるいは教育を受けた人間)が、その古典が持つ意味を読み解くのに、一番有利な場所にいると言える。しかし同時に、これも一般的に言えば、その古典の継承者であることが、その古典の意味を理解することを妨げる場合も、ありうる。例えば、継承者が、その古典に、現在生きる人間あるいは社会が付与している意味・価値が、その古典が成立した際の事情の理解を妨げることがありうるのである。本研究は、ホメーロス理解に関して、その理解の鍵となるべき個所において「古典の継承者であることがその当の古典の理解を妨げることがありうる」ことを明らかにし、その箇所を、文化的継承者でないことを自覚するものがどのように理解し、解明することができるかを具体的に明らかにしようとしたものである。 「成果」 理解の鍵となる箇所というのは、本研究にとっては、口承叙事詩の最後の伝承者の世界観、特にギリシア人とアジア人(バルバロイ)の問題であった。ほぼ、正確な、理解者が持つべき視座は示し得たと考える。具体的には、以下に記される論文でその主張は明らかにされているが、問題が根源的なところに設定されていたこともあり、今後のホメロス研究に与える影響は大きい、と判断する。なお、この成果を必要とするのは、実は、むしろ、ヨーロッパのホメロス研究であるが、その点を考慮して今後の研究活動を継続したい。
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