研究概要 |
以下,別表の順序に従って報告する.まず(1)(2)(10)は,筑波大学附属中央図書館和装古書室で筆者により発見された慈雲(1718-1804)直筆の孤本『法華陀羅尼略解』に関わる.その公開は2010年度同し図書館秋季特別展示会にて行われたが,展示図録((10))はすべて筆者の手になるほか,発見の経緯を(1)に記し,直筆本の翻刻を中心とする論考を(2)にまとめた.一方(3)は,すでに公にしたビザンティン典礼暦「メノロギオン」(全訳)の通年暦と聖人名索引である.(5)(6)(7)は,ギリシア教父アレクサンドリアのクレメンスによる著作『パイダゴーゴス』全3巻の拙訳であり,(4)ではこの著作に見られる神学を『ヨハネ福音書』第12章に認められる異邦人との接触に照らして論じた.また(8)では『ルカ福音書』第1章に見られるザカリヤの沈黙を「聖霊の充溢が語らせるまで」と解するクレメンスの特質を扱い,(9)では,ビザンティン典礼暦における復活から聖霊降臨までの50日間が「ヨハネ福音書」からの朗読で占められることに注目したうえで,同福音書の「十字架登攀」と「昇天」とが等価に置かれていると指摘した.(12)は,前年のセゲド国際聖書学会での発表の活字化であり,パウロがローマを目指したという『使徒行録』の記述をめぐり,ルカによる普遍史的傾向を指摘したもので,以上3点はいずれもハンガリー語による成果である.そして(11)は,2005年度の在外研究によりハンガリーに滞在して以来の研究成果であり,本邦では未知の「ギリシア・カトリック教会」に関して,その歴史・教会法・典礼・神学を総説し,この共同体の本質が「十字架上の聖体論」にあることを指摘しつつ,この聖体共同体からの光を基に文献学・古代学・教父学に向けて知見を拓き,この東方典礼共同体を基点に仏教・神道など東洋伝統思想の意義づけを試みたものである.結論は,仏教における旧約的役割の明確化,即ち「聖体の予型としての戒体」であった.
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