本研究はヘレニズム文学の至宝、カリマコスの諸作品を研究し、(1)カリマコス詩歌の文学的意義を考察すること、(2)カリマコスを中心とするヘレニズム文学の特質について考察すること、(3)カリマコス並びにヘレニズム文学が後代に与えた意義を究明すること、主としてこの三点に焦点をあてて研究することを、その目的とする。カリマコスは紀元前4-3世紀に、プトレマイオス2世治下のアレキサンドリアの宮廷を舞台に活躍し、数多くの文学作品を残した詩人である。古代の辞典(スーダ辞典、紀元後10世紀)によれば、カリマコスは800作余りの詩を書いたといわれ、ヘレニズム文学を代表する詩人・文学者であった。しかしながら今日ではその作品の大半は失われており、わずかに六編の讃歌集(『ゼウス讃歌』、『アポローン讃歌』、『アルテミス讃歌』、『デーロス島讃歌』、『アテーネー讃歌』、『デーメーテール讃歌』)と、祭や風習の原因・起源を語る『起源物語』、それに風刺詩とその断片が残るにすぎない。しかも、これらの日本語訳は未だ出版されていない。 本年度は次のように、理論的、基礎的な研究と資料収集に比重をおく活動を行った。 (1)カリマコスの讃歌集の翻訳を試みた。併せてその詩の構造上の問題、用いられている言語表現も研究し、訳注をほどこす作業を進めた。特に神々への讃歌においては、カリマコスがギリシア古典の伝統を踏まえつつ、従来の神話にどのような創意を加え、神話の基盤、根拠をどこに求め、どのような神話理解をしていたかを考察した。 (2)関連部門の国内の研究集会への参加 国際基督教大学、京都大学などで開かれる研究集会へ出席した。 (3)資料、文献の収集 カリマコスのスコリア(古註)など、金沢大学図書館に所蔵されていない書籍をイギリス・ケンブリッジ大学図書館で閲覧した。
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