本研究は、フランスの作家プルーストが、その生涯においてどのような芸術をいかに受容していたかを網羅的に調査するとともに、受容された芸術が代表作『失われた時を求めて』にどのように取り込まれ、それが作中でどのような機能を果たしているかを総合的に解明するため、固有名詞調査に基づく基礎的研究をまとめることを目的とする。 平成23年度には、プルーストと接点を有する同時代の芸術がどのような状況にあったかを解明するため、前年にひきつづき『プルースト書簡集総合索引』をはじめプルーストの各種刊本の索引を活用しつつ、当時の展覧会、演奏会、公演プログラムをはじめ、絵画・音楽・建築・演劇・バレエ・装飾芸術、写真などの諸芸術に関する書物や論文などを調査した。さらに2年間の調査結果の不備を補い、全体の成果を見直すとともに、新たに必要となった文献、とくに作家の芸術受容の実態を明らかにできる専門書、雑誌論文、当時のカタログやプログラムなどで必要となったものを補充・分析した。『失われた時を求めて』と関連作品、『プルースト書簡集』、プルーストの伝記や個別研究などの文献をあらためて読み直し、絵画、音楽などの芸術作品を作家がどのように受容・評価をしていたかをできるかぎり総合的に考察した。その際、作家の芸術受容と創作との関係をできるだけ実証的に明ら、かにすること、それにより文学史の革新の可能性を示すことに努めた。京都やパリやトルーヴィルでのプルーストをめぐる研究集会に参加し、研究成果の一部を発表するとともに、研究課題につき専門家の助言を求めた。 とくに調査の進んだ分野を中心に、研究発表の項目に記した成果をえた。プルーストの芸術受容を草稿などの基礎資料にもとづき解明する口頭発表、論文、著作である。さらに調査研究の一部は『失われた時を求めて』の翻訳(岩波文庫)第2巻と第3巻の訳注にも取り入れた。
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