本研究は、保守革命思想の根底に潜む教養理念を析出し、これまでナチズムやフェルキッシュ運動との関連でしか考察されてこなかった保守革命の思想をフンボルトに淵源するドイツ教養理念の精神史の中で捉え直すことを目的とする。本年度は、シュペングラーについての昨年度の考察を論文「シュペングラーにおける「ファウスト的」なるもの」にまとめた。その過程で判明したのは、いっけん奇矯な歴史哲学を語るかに見えるシュペングラーの『西洋の没落』が、ゲーテ以降の伝統的なドイツ教養理念に深く根ざした世界観を内包していることである。歴史上存在した八つの高度文化のうちの一つである西洋文化を「ファウスト的」と呼んだシュペングラーは、この命名によって西洋文化の本質を「無限」への意志、「超越」への意志をもつものと規定した。孤独と夜を好む「ファウスト的魂」は地上的なものに飽き足らず、無限の空間に分け入ろうとする。その情熱を体現するのがゴシック建築であり、フーガの技法であり、「内面の発展」をえがく教養小説である。これら、いずれもドイツ的と言い換えることの可能な文化の形態は、それが「意志の文化」であると言われることによってニーチェと結びつく。「意志」と「理性」のどちらが優先するか、という西洋哲学史の重要問題のひとつを取り上げたシュペングラーは、「意志」を優先するのが「ファウスト的」人間であり、とりわけニーチェがそうであったと言う。「ファウスト的」世界像の純粋空間は感覚的な「アポロン的」空間を克服した「力への意志」としての拡がりであると言うことによって、さらには「ツァラトゥストラ」における「向こう岸への憧れ」を称揚することによって、シュペングラーはゲーテの「ファウスト」とニーチェの「探求者」を結び合わせるのである。
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