本研究の目的は、アンデルセン文学の中において"移動"、"越境"、"旅"をテーマにしたテクストを選別し、それらのテクストが文学以外の芸術領域と交錯するなかで創造され、流動的なマルチ芸術性を内包していること、さらにそれが19世紀ロマン主義芸術と現代芸術とのインターフェースとなっていることを検証することである。 本年度は最終年度に予定していた研究を遂行した。具体的には、アンデルセンの没後に音楽化されたオペラ、歌曲などの調査に当たると同時に、平成23年9月24日に兵庫県立芸術文化センターにて上演された、アンデルセンの「人魚姫」を現代的解釈に基づいて再創造したモノオペラ「人魚姫」の台本の監修に携わり、脚本家および演出家とともにアンデルセン童話の解釈の多義性について互いに意見交換を行った。また、アンデルセンのマルチ芸術性に関して総括をおこない、研究の所期の目的、アンデルセン文学がジャンル、時代を超えて存在し続ける「越境文学」、「移動文学」として捉えるべく、現代北欧児童文学作品におけるアンデルセンの影響、テーマの普遍性について検証を行った。とりわけテーマ"越境""旅"のなかで「子どもの死」がどのように現代北欧児童文学に継承されているのかについて調査を行い、今後の研究課題を模索した。またそのテーマに基づいて、平成23年5月、および7月に一般市民に向けて「アンデルセンと北欧児童文学」、「北欧児童文学に描かれるさまざまな家族-大人が子どもに死を語る」と題して2回の講演を行った。
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