本研究の目的は、ゾラがボードレールから受け継いだものを明らかにすると同時に、ゾラが自身の美術批評活動および創作活動において、どのように同時代的な関心を推し進めていったのかを、特にマネや印象派との関係から明らかにすることである。 本年の研究成果は、2本の既公刊論文と1本の未公刊論文(原稿提出済み)にまとめることができる。「1879年のマネとゾラ―共和派政権の誕生と市庁舎壁画プランを中心に」においては、一般にゾラがマネから離反していくと言われている1879年の両者の状況を、書簡などの資料に基づいて詳細に跡づけ、共和派政権の誕生と自然主義キャンペーンの盛り上がりの中で、この年にゾラとマネの共闘は再確認された可能性を指摘した。「ゾラとボードレール―ゾラの文学批評におけるボードレール評価について」では、一見したところ明らかに反ボードレールの性格を有しているゾラの文学批評をその全体的な文脈から読み解き、ゾラの批評言説の教義的性格とボードレールに対する真の理解について考察した。「マネと〈自然主義〉―マネ研究に対するゾラ研究からのアプローチ」においては、マネにとってゾラがどのような存在であったかをボードレールの場合と比較して考察し、ゾラとマネの「共闘」についての全体的な流れを記述した上で、とりわけ70年代以降におけるマネの絵画とゾラの小説群との照応関係について考察した。以上によって、これまでの定説に反し、ゾラはボードレールから多くを受け継いでいる可能性が高いこと、ゾラとマネの共闘は60年代後半にとどまらず、70年代以降も継続しており、マネ晩年まで続いていたことを明らかにすることができた。以上の成果を、昨年度京都大学に提出した博士論文「ゾラとマネ・印象派―1860年代後半から1880年代前半における文学と絵画」に導入し、著書出版用の原稿を整備した。
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