本研究は、19世紀フランスの小説における男性像の具体的な造形例を、当時の男性作家が書いた作品から抽出し、「男性→男性」へのまなざしの特質を検証すると同時に、女性作家が描いた作品における男性像と比較することにより、ジェンダーの非対称性の容態を明らかにすると共に、それを生み出す磁場のありかを探求することを目的として行ってきた。具体的に、本研究が問いかけた内容は次の3点である。 1.19世紀フランス小説に読み取ることのできる「男性性」とはどのようなものか。 2.男性が男性に投げかけていたまなざしは、どのような性質を持っていたと考えられるか。 3.女性作家が描いた男性像に、一定の類型はあるか。あるとしたらどのようなものか。 研究の最終年度にあたる平成23年度は、19世紀フランスに固有の現象であるフランス革命やナポレオン帝政時代といった社会事象を念頭におきながら、それが「男らしさモデル」の変遷にどのように影響したかということを中心に検討した。研究対象として、女性作家のジョルジュ・サンドやコレットはもちろん、シャトーブリアン、コンスタン、スタンダール、バルザック、ミュッセ、モーパッサンなどの男性作家の小説作品から、「世紀病」など特徴のある男性登場人物を抽出した。また、荒々しさが「男らしさ」と認識されなくなった時代において、青年たちがいかにして女性たちの側に入り込み、自らのアイデンティティを書き換えていったかを、サンドやコレットの作品も使用して明らかにした。 今年度まで3年の研究成果は、冊子体の報告書としてまとめ、公開した。
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