昨年度の調査によって明らかになったトレペレル家活字本239点から本年度の調査を始め、S.Rambaudなど初期活版書籍に関する参考文献との照会、パリ国立図書館での調査によって、トレペレル家のプリンターズマークが入っている、あるいはコロフォンなどにアドレスとしてJ.トレペレル、その未亡人のマルグリット、彼女と娘婿J.ジャノが記されている活字本を(他の書籍商からの依頼によるものを含めて)少なくとも173点を特定した。そのうち出版年月(日)の入っている版本48点についてパラテクスト、特にその表紙について分析を行った。 M.M.Smithなどの研究によるとトレペレル家の活字本の前半期に当たるインキュナブラ時代の表紙は一般的に、前付けと本文、ブランク、簡素なラベル付け、ラベルへの情報と装飾の追加、の順に発展したと考えられる。トレペレル家の表紙を悉に分析した結果、その発展は、(1)簡素なタイトル+プリンターズマーク、(2)簡素なタイトル+木版挿絵、(3)充実したタイトル+木版挿絵+出版元情報の流れで発展してきたことが明らかになった。このことは、活字本の顔である表紙が当初は出版書籍商のイメージを優先していたが、徐々にこのイメージが作品の内容のそれに取って代わられていく過程を示している。他方で、(3)の出版元情報の記述の分析から、表紙(3)のスタイルが当時の口頭による書籍販売に寄与した可能性も高い。トレペレル家の活字本は、インキュナブラからポスト・インキュナブラの時代への変化する中で、印刷工房で平積みにされている活字本から工房の外で口頭で販売される書物(もの)として機能していったことがこのパラテクストの分析から明らかになった。 トレペレル家の歴史と以上の分析の一部をまとめて「パリ出版書籍商トレペレル家とそのタイトルページ」と題する論文を発表した。
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