2010年度は、日本と西洋の文化交流という観点から堀口捨己の著作、建築作品の研究を行った。堀口は、モデルネを建築で表現した建築家集団である、分離派建築会の共同創立者である。東京の分離派建築会ではとりわけ、Otto WagnerやJoseph Maria Olbrichをはじめとするウィーン分離派を規範としていた。堀口自身もJosef HoffmannやGustav Klimtらのアトリエを訪れるなど、ウィーン分離派からの影響については、さらに研究を進める必要があった。 堀口の作品(紫姻荘、双鐘居、吉川邸、岡田邸など)は、西洋と日本の伝統的原理が一種統合されたものであり、建築物は各原理の結合モデルの具現化と捉えることができる。この結合は、両文化の融和にあるのか、それとも対照的合成、もしくは統合にあるのか。堀口の作品群は、文化交流モデルの理論的研究に最適である。近刊書『戦間期日本における国際的建築International Architecture in Interwar Japan.Constructing Kokusai Kenchiku』(Ken Tadashi Oshima著、Seattle 2009)は、「交雑性」などの新しい文化学的枠組に従って構成されており、こうした試みを促進するものである。また、建築分野とその延長上の文化における「日本的なもの」の問題について著作の分析・研究も行った。これには磯崎新の『建築における「日本的なもの」』や松岡正剛『日本流』などの著作研究が該当する。ここでは、日本文化の規範を形成している交雑性、異種混淆性、多様性の諸モデルが議論の対象となっている。これらの研究成果として2010年度は論文発表、講演を行った。
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