2011年度は、堀口捨己の作品・著作研究を中心に行った。特に堀口の著作『一住宅と其庭園』と『堀口捨己の「日本」-空間構成による美の世界』を援用して、現代建築へとつながる文化横断的思考の糸口を探った。初期作品で堀口は、現代的解決法を求めて和洋折衷の問題性を論じただけでなく、西洋のモデルネと日本の伝統が織りなす相互作用モデルを提示した。日独両言語で書かれているこの堀口の著作は、堀口が現代の和洋折衷の一つの解答例となしえた岡田邸に付されたものである。この岡田邸には文化的同時性の数々が示されている。例えば、西洋と東洋、現代と伝統、木造とコンクリート造、外と内、抽象と具象といった具合である。分析の詳細は、『Simultaneitat-Ubersetzen(同時性と翻訳)』のテーマで出版することができた。 この岡田邸の分析は、家の概念が技術的観点からだけでは捉えきれないことを示している。家というものは、生活・居住様式、さらに言えば一つの国の文化そのものと因果関係がある。この意味で家の概念は、建築人類学や建築民俗学の研究成果を参照することによってさらに拡充された。日本住宅に関するこの分野の著作としては、和辻哲郎の『風土』やドイツ語圏の著作(ギュンター・ニチュケ『神道から安藤忠雄まで』)、スイス人日本学者の著作(ノルト・エルディンガー)などが挙げられた。また、ハイデガーの『建てる・住まう・考える』も、この文脈で参照した。この講演は、住む機能から家を考察する重要性を示しているためである。建築人類学の著作群も、空間の問題を意識的に取り上げており、異文化においては、空間は様々に構想されうることを示した。この分野については次のプロジェクトでさらに詳細に探求されるべきであると確認できた。
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