研究課題/領域番号 |
21520338
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
寺田 元一 名古屋市立大学, 大学院・人間文化研究科, 教授 (90188681)
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キーワード | ディドロ / 生理学 / ハラー / 『生理学要綱』 / 啓蒙 / 間テクスト性 / 生気論 / 唯物論 |
研究概要 |
ディドロは『ダランベールの夢』までは、ボルドゥやメニュレを中心とするモンペリエ学派の生気論の影響下にあったが、その後それ以外の脱=単純機械論的潮流からも大きな影響を受け、その間テクスト的広がりのなかで、『生理学要綱』を執筆した。中でもハラー『生理学原論』の影響は重要で、その内容に影響を受けただけでなく、そこに引証された典拠もディドロは間テクスト的に利用している。 その意味で、本研究の遂行に当たって、ハラー『生理学原論』を間テクスト性の観点からきちんと読解し、それとディドロ『生理学要綱』を比較することが決定的に重要である。『生理学原論』がラテン語の大部の著作であることから、これはまだ欧米の研究者も行えていない研究である。今年度は、その意味で『生珪学要綱』は置いて、ひたすら『生理学原論』の読解に傾注した。当初の予定では全八巻中最低でも第一巻は読了するつもりだったが、ラテン語一般の読解上の困難に留まらず、18世紀生理学ラテン語独自の用語や歴史的文脈の問題もあって、初めは読解が遅々として進まなかった。半年ぐらい経ってやっと多少スムーズに読めるようになり、現在第一巻の半分程度まで読解が進んでいる。 現状では、その読解の成果を『生理学要綱』の間テクスト的読解に活かすまでには至っていない。ただし、以前と比べれば、かなりスムーズにラテン語を読めるようになっており、その過程で『生理学原論』自体が間テクスト的成果であり、ディドロがそうした側面にも着目しながら、『生理学原論』を活用したことなど、重要な知見も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ディドロが『生理学要綱』執筆に当たってもっとも依拠したのが、ハラー『生理学原論』である。これが四つ折版ラテン語全八巻(各巻500ページ強)からなり、通常のラテン語辞典にないような近代生理学の専門用語なども使われ、読解するのに苦労している。ただ、第一巻を既に半分ほど読み、ハラーの文体や用語にも慣れてきたので、今年度はかなり読み進められると思っている。
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今後の研究の推進方策 |
ハラー『生理学原論』の読解を継続的に進めることで、ラテン語にさらに慣れ、読解のスピードアップを実現する。それでも全八巻を読み通すことはできないが、第一巻(できれば二巻も)を読み通し、この『生理学原論』自体が、同時代あるいは少し前の時代の非常に多くの生理学論文・著作の間テクスト的集成であること、ついで、そこからディドロがどの部分を取り出し『生理学要綱』を執筆したか、さらには、『生理学原論』の間テクスト性に依拠して、『生理学要綱』を間テクスト的に構成したか、を報告書で明らかにしたい。したがって、報告書は当初の予定とは異なり、研究の中間報告となるが、来年度以降もこの課題で科研費に応募することで、当初の目的を完遂したいと考えている。 生理学の展開とその間テクスト的読解による人間観、道徳、社会観の転回こそが、18世紀後半の唯物論の発展や19世紀初頭の観念学や生物学の成立をもたらし、人間を身体的自然や環境的自然との総合的関連で捉える画期となった。その要となるところに、ディドロ『生理学要綱』とハラー『生理学原論』の間テクスト的広がりがある。その間テクスト性を掘り起こす作業は、当初考えたよりもはるかに困難なことが見えてきたが、中間報告から最終報告へと進めることは、ディドロ思想の再評価のみならず、キリスト教的、ストア派的人間観から生理学的生態学的人間観の転回という、革命的変化を解明することにもつながり、継続的に追求する意義がある。
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