研究概要 |
本研究の課題に関して本年度は,理論面においては,モーリス・アルヴァクス(Maurice Halbwachs)が両大戦間に構想した「集合的記憶」論-とりわけ"Les Cadres sociaux de la memoire","La memoire collective","La topographie legendaire des evangiles"の3著作-を検討し,その現代的意義を探った。これは以後の継続的に進められる研究の端緒をなすものになる。またアルヴァクスの構想と,同様に両大戦間期に独特な「回想」についての議論を行なったヴァルター・ベンヤミンの思想-とりわけ晩年の「歴史」概念-とを相関的・総合的に捉え,今後の1920年代,30年代における「記憶」構想形成を広範に検討する基礎研究とした。さらに,アルヴァクスとの関連で,彼の弟子でもあるスペイン出身のフランス語作家ホルヘ・センプルン(Jorge Semprun)の諸著作を,「ショアー以後」の「記憶」「歴史」記述の一例として検討した。 現在のドイツにおいて「警告碑(Mahnmal)」等として具体的に設置されている諸インスタレーションについての検討は,とりわけクリスチャン・ボルタンスキーの「欠如した家(The Missing House)」及びグンター・デムニヒによる企画「蹟きの石(Stolpersteine)」について文献を系統的に収集し,その検討に着手した。その他の文献の収集も同時に進めた。ただし当初予定されていた現地での関係者に対する聞き取り調査は,職務のため海外出張が不可能となり実施されなかった。
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