研究概要 |
本年度は,2010年にヴァルター・ベンヤミン新全集の一巻として刊行された彼の遺稿「歴史の概念について(Uber den Begriff der Geschichte)」の再検討を第一の課題として,さまざまな異稿や草稿を含めて精読し,このテクストのベンヤミンの思想のなかでの位置づけを改めて確認するとともに,さらにそれを越えて,「第一次世界大戦後」という両大戦問期の思想に広く見いだされる特性を帯びたもののひとつとして確定する作業を進めた。つまりこれは,「死者の記憶」という言い回しによって敷衍できるものであって,その限りで第二次世界大戦後の思想の課題ともおおきく重なり合うものである。この見通しをさらに日本における「戦後」のディスクールに関連させた論文をすでにまとめてあるが,目下のところ投稿した雑誌は未刊行である。(掲載は決定されている。) それと同時に,前年までに引き続き,モーリス・アルヴァクスの「記憶」論を詳細に読解する作業を進めている。これは「集合的記憶」概念の成立を追うという概念史的な関心に由るものではなく,ベンヤミンの場合と同様に「第一次世界大戦後」の思想をより包括的に検討してゆくための準備作業になる。そしてそのなかで,彼の「集合的記憶」概念も,「死者の記憶」という観点から検討してゆくことになる。 また,これも継続されている「警告碑(Mahnmal)」についての検討は,資料の収集にとどまり,より具体的な作業を押し進めるまでにはいたっていない。
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