本年度は、「20世紀科学イメージの表象分析-現代社会の神話としての科学表象」という課題のもと、とりわけ「身体と機械」の表象関係を分析した。分析の柱は次の三点であった。 その一。「健康」と「身体的美しさ」を無媒介に癒合した「健康美神話」における、機械と身体的本質構造の表象関係。 その二。20世紀の特質として「電気エネルギー」表象、とりわけ「高周波電流」表象が「体外から体内への境界侵犯」という挿話圏を形成するプロセス。 その三。「サイボーグ表象」(ダナ・ハラウェイ「サイボーグ宣言」1991年)が帰結させた「機械と生体の雑種」構図が、20世紀初頭以降、すでに各種身体加工器具の表象圏において起動している様相。 上記の三点を、米国・ドイツ・日本の科学啓蒙雑誌(ポピュラー系科学雑誌)の記事・テキスト・図像を対象にして表象分析をかけた。その結果、現在までの時点で、以下のような構図が確認できた。 その一。こうした20世紀固有の機械と身体の相互関係の中から、それまであった有機体的一体論としての身体表象が、「部品」の集合体という身体表象に解体・再編成されてゆく。その際、理念的・哲学的議論にも増して、機械と身体の直接的接触体験からくる表象体系の方が影響力を発揮した。とりわけ、本来、機械が固有に内包している「限定的目的のための限定的機能性」というものが、従来の身体表象がもっていた「全体性」イメージを解体してゆくのを促進した。 その二。しかも、そうした部品化という身体表象の再編成は、体外から体内への人為的手立てとして実現する。結果、体表および体表感覚が「境界侵犯」されることになる。ここにこそ、後年サイボーグ的身体表象と呼ばれるものの表象的基盤が誕生した原点がある。
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