2010年度は、19世紀後半から20世紀初期ロシアの文学とメディアの研究に必要な資料の収集を引き続き進めるとともに、年度前半では、1910年代から20年代のロシア・フォルマリズムの詩的言語理論と知覚理論・心理学との関係にかんする資料を読解・分析し、その結果を論文「詩的言語における身体の問題-ロシア・フォルマリズムの詩学を巡って」(原稿用紙約100枚)にまとめ、北海道大学スラブ研究センターの学術誌『スラヴ研究』に投稿した。論文は査読で高い評価をうけ、『スラヴ研究』58号に近々掲載の予定である。 年度後半は、思想家アレクセイ・ローセフの言語論や哲学者グスタフ・シペートの著作におけるフッサール現象学や心理学・知覚理論との関係を検討し、その結果の一部を北海道大学における研究会「ロシアにおけるプラトン」(2011年3月1日)で発表したほか、フランスの哲学者ドゥルーズの理論におけるベルクソン、フッサールの影響と、ロシアの詩人マンデリシタームにおけるそれを比較検討し、論集『ドゥルーズと文学』(せりか書房、2011年)に論考を掲載、また、ロシア・フォルマリストのユーリイ・トィニャーノフの文学理論と現象学の関係を論じた「詩的言語の現象学、あるいは、声と記号のあわいで-ユーリイ・トィニャーノフ『詩の言語の問題』(一九二四)をめぐって」を執筆(近日刊行予定)。さらに、2010年10月には、新潟大学でひらかれた、全体主義期の各国映画にかんする研究会に参加するとともに、2011年1月に開かれた東京外国語大学主催のシンポジウムにおいて、ソヴィエト期ロシア映画について発表を依頼されるなど、映画メディアについても充実した活動をおこなったほか、2010年7月ストックホルムの国際学会で、フロレンスキイのイメージ論についての発表もおこなった。
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