映画の出現と、文芸理論の発展との関係は重要であり、それについては共編著による著作『再考:ロシア・フォルマリズム』(せりか書房、2012年)の序文で解説している。さらに、論文「詩的言語における身体の問題:ロシア・フォルマリズムの詩学をめぐって」(『スラブ研究』第58号)や、「フォルマリズムはフォルムを拒否し破壊する:同時代の知覚・認識理論とロシア・フォルマリズムの「異化」概念」(『早稲田現代文芸研究』第2号)では、フォルマリズムの「詩的言語」概念が、当時の心理学や録音テクノロジーなどと結びついた身体性の新しいとらえ方と連動していることや、セゼマンの認識論やベルクソンの理論における直観主義的な対象認識のあり方と、フォルマリズムの「異化」概念との重要な結びつきを指摘した。 さらに本研究では、当時のロシア思想・哲学における表象・言語理論と、西欧の知覚理論との関係を解明することを試みた。その結果、アレクセイ・ローセフ、シペートなどの哲学者が、現象学などの影響下に、言葉と指示対象との関係を、表象的関係ではなく、存在論的なイデアの実在化としてとらえていることが解明された。言語表象にたいするこうした独自の態度は、文学生産のあり方に大きな影響をおよぼしているはずである。
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