研究概要 |
2010年度はまず予算の許す範囲でこれまでに入手した資料のうちマイクロフィルムのデジタルスキャンを行いその利用性を高めた。また新資料を見つけ出し、入手することを継続する一方、入手できたプルースト関連記事、論文、図書約1200点を読み込み、当時の文芸批評の特色を把握することを続行した。その成果の一部は《Proust et le dix-neuvieme siecle selon ses critiques contemporains》として2010年11月19日に国際研究集会Proust face a l'heritage du XIX^e siecle : filiation et ruptures(関西日仏学館,2011.11.19-20)において発表した。当時の批評においてプルーストと比較されていた頻度の高い19世紀作家を特定し、比較方法を分析した結果、フランスについてはバルザック、スタンダールといった通常は共通の特徴があるとは認識されない複数の作家に等しく好んで比較されていることを指摘した。外国の作家に関してはジョージ・メレディスとプルーストが同種の特徴を持つとしてしばしば対照されていたという事実は意外な発見であった。また近年、プルーストと他の作家の間テクスト性を論ずる研究では、受容の事実や特色の共通性が重要視されるのに対し、同時代の批評家は、両者の共通点を指摘するものの、最終的に両者の相違点を強調するといった傾向がはっきり観察される。この発表内容はPresses de la Sorbonne nouvelleより刊行予定である。 資料分析の途上、現在ではあまり読まれない作家、ならびに批評の媒体や批評家自身についてのより詳しい情報を得ることが課題として浮上してきた。そのため2011年3月にはパリ市内の複数の図書館で調査を行い情報収集を開始した。
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