研究課題/領域番号 |
21520357
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
真田 桂子 阪南大学, 流通学部, 教授 (60278752)
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キーワード | ケベック / フランス / 移民作家 / アラブ系二世 / トランスミグランス / ライシテ / インターカルチュラリズム / 統合政策 |
研究概要 |
平成23年度は、当該研究計画に従い、ケベックの「インターカルチュラリズム」のもとで進展するトランスミグランスについて考察を深めるとともに、8月にフランス・パリへの海外出張を行い、フランスの移民文学の現状とその受容について、文献収集とインタビューを中心とする研究調査を行った。 フランスでは、1950年代から旧植民地、とりわけアルジェリアを中心とするマグレブ諸国から大量のアラブ系移民が流入し移民問題に揺れている。フランスの移民文学において、とりわけBeurと呼ばれるアラブ系二世の文学は近年存在感を増し注目を浴びている。パリでは主にこのアラブ系二世作家の動向について最新の資料を収集し研究調査を行った。Beur作家の作品のテーマやその内外での受容など、全般的な傾向について分析を行うとともに、なかでもBeur作家を代表する一人で1980年代後半から多数の小説を発表しているアズズ・ベガッグ(Azouz Begag)の作品に注目し詳細な分析を行った。ベガッグの小説は、Beur文学に顕著な特徴である、青少年の主人公の成長物語を軸にした自伝的な作品であり、アラブ系の人々が使うアラビア語なまりの独特のフランス語を散りばめ、スラム化したビドンビルを舞台にアラブ系移民のコミュニティの様子をつぶさに描いていた。そこには、「二重の隔たり」を生きざるを得ないアラブ系二世がおかれた固有の状況についての問題提起や、アラブ系移民の共同体の姿を、フランス社会において開かれる一つの異次元として積極的に描き出そうとする戦略的な意図が含まれていた。またこの作品の教育やメディアでの受容について調査し、フランス社会での移民問題を背景にこの作品が賞賛と反発を巻き起こし、複雑な状況にあることを浮き彫りにした。またケベックなど、他の移民文学のあり方との比較検証と考察も行った。これらの分析と検証の結果は、別記の通り論文としてまとめて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、ケベックのトランスミグランスに照らし合わせながらも、視野を広げフランスの移民文学についての調査研究、および分析に取り掛かることが出来た。その結果、比較検証を行う上で極めて興味深い視点を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はまず、「インターカルチュラリズム」が浸透し、葛藤と寛容性のなかで新しい世代の移民作家が誕生しているケベックのトランスミグランスの最新の状況について分析を行う。次にフランスにおけるBeurを中心とする移民作家の状況とケベックにおける移民作家の状況について、各々の社会的背景も考慮し、作品にそいながら具体的で詳細な比較検証を行う。さらに十分な時間が見込めないためごく一端に留まるとしても、他の仏語圏の状況も視野に入れた移民作家受容についての総合的な比較検証を目指す。
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