過去2年間は、『屈折光学』の論証構造、およびその後に繰り広げられたモランとの論争を通して、17世紀前半という時代におけるさまざまな仕方での科学的論証のあり方を、(近世の)アリストテレス主義、ラムス主義、デカルト的方法、といった観点から分析した。最終年度では、これらの成果を、デカルト哲学全体の中で位置づけるべく、デカルト光学の諸相を、(1)光の感覚像としての受け取り、(2)物理的対象としての光学研究、(3)光の諸特性を読者に提示する際の論証、の3つの側面に分けて検討した。その結果、デカルト光学の特徴を3つの合理主義、すなわち二元論的合理主義(心身の直接的に合一した原始概念も含む)、機械論的合理主義(作用因に基づく物体相互の位置的変化としての自然学)、直観主義的合理主義(論証の整合性に過度の重きを置くスコラ的論証ではなく、明晰判明なものの直観に基づく論証と方法)、と位置付けることができた。 この成果はすでに執筆済みであり、2012年度中に共著『合理性の考古学』の第1章「はじめに光ありき-知の基軸としてのデカルト光学」として公表される予定である。また本課題遂行のため、とくに研究協力者である久保田静香氏と恒常的に連携した。彼女の成果はソルボンヌ大学に博士論文として提出され、その公開審査には代表者も出席し、その後の審査員との会話を通して、当該テーマに関する有益な情報を得ることができた。またその際の渡仏を利用してフランス国立図書館で資料調査を行った。
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